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0歳からの”ことば遊び”が、35歳の血圧に届いていた ― 50年つづく追跡研究「アベセダリアン・プロジェクト」が教えてくれること

0歳からの"ことば遊び"が、35歳の血圧に届いていた ― 50年つづく追跡研究「アベセダリアン・プロジェクト」が教えてくれること

0歳からの”ことば遊び”が、35歳の血圧に届いていた ― 50年つづく追跡研究「アベセダリアン・プロジェクト」が教えてくれること

「小さいうちから、何かさせたほうがいいのかな」「早期教育って、結局どうなの?」「いやいや、元気に育ってくれればそれで十分」。赤ちゃんを抱っこしながら、そんな気持ちのあいだを行ったり来たりすること、ありませんか。こんにちは、仙台のベビーシッターサービス Family Sitter です。9月は厚生労働省の「健康増進普及月間」。パパママご自身の健康を見直す月に、今日は少し視点を変えて、「子どものころの保育が、大人になってからの”体の健康”に関係していた」という、50年以上つづく追跡研究のお話をお届けします。

ざっくりいうと

  • 米国で1972年に始まった「アベセダリアン・プロジェクト」は、生後4か月ごろから5歳まで、”ことばのやりとり”と”遊び”を大切にした保育を受けた子どもたちを、50年以上追いかけている研究です
  • 30歳の時点で、4年制大学を卒業した人の割合は、受けなかった人の約4倍でした
  • 30代半ばの血液検査と診察では、男性の血圧が明らかに低く、メタボリックシンドロームの人はひとりもいませんでした
  • 中身は”お勉強”ではありません。少人数で、大人が赤ちゃんの声にこたえる、ごくふつうの関わりの積み重ねでした

「アベセダリアン」って、どんな研究? ― 生後4か月から5歳まで

アベセダリアン・プロジェクトは、米ノースカロライナ州チャペルヒルにあるノースカロライナ大学の研究所(FPG子ども発達研究所)が、1972年に始めた研究です。「アベセダリアン」は”ABCを学ぶ人=初心者”という意味の英語。経済的に厳しい家庭に生まれた赤ちゃん111人が参加し、くじ引きのように無作為に2つのグループに分けられました。

一方のグループは、平均して生後4.4か月から5歳になるまで、週5日・1日6〜8時間、研究所の保育センターで過ごしました。もう一方のグループには保育プログラムは提供されませんでしたが、栄養や医療、福祉のサポートは同じように受けられるようにして、「保育の中身」だけの違いを見られるように工夫されています。

この研究のいちばんの特徴は、始まりが「0歳」だということ。世界的に有名な幼児教育の研究の多くが3〜4歳から始まるのに対して、赤ちゃんの時期から5年間ものあいだ、ていねいに追いかけた研究はほとんどありません。そして参加した子どもたちは、5歳・8歳・12歳・15歳・21歳・30歳、そして30代半ばと、大人になってからも追跡調査を受けつづけています。

中身は”勉強”ではなく、”ことばのやりとり”と”遊び”

「5年間も保育センターで」と聞くと、机に向かって文字や数を教え込む光景を想像するかもしれません。でも実際は、まったく違いました。

プログラムの中心は、大人と子どもの1対1、または少人数での”ゲーム”のような関わりです。大人ひとりに対して、赤ちゃんの時期は子ども3人まで、5歳のころでも6人まで。赤ちゃんが「あー」と声を出したら、大人がそれにこたえて話しかける。おもちゃを差し出したら、「これ、なあに?」と言葉をそえる。そんな”声の往復”を、毎日たっぷり繰り返しました。

研究所の資料には、プログラムがめざしたものとして「ことば」「体の動き」「考える力」に加えて、「自分で取り組む力」「人に伝える力」「思いやり」といった、心の育ちが挙げられています。あわせて、2週間に1回ほど家庭を訪ねて、おうちでもできる遊びを親に伝えていました。つまり中身は、いま日本の保育や子育て支援で大切にされていることと、驚くほど重なっているのです。

30歳の追跡 ― 大学卒業は約4倍、安定した仕事にも

まず、大人になってからの暮らしの面を見てみましょう。30歳時点の調査では、保育プログラムを受けたグループのうち、4年制大学を卒業した人は23%。受けなかったグループの6%と比べると、約4倍でした。直近2年間ずっと仕事についていた人の割合も、74%と53%で差がありました。

10代で親になった人が少ないこと、気分の落ち込みを訴える人が少ないことなど、21歳時点でもさまざまな面で違いが報告されています。ただ、ここまでは「教育の研究らしい結果」と言えるかもしれません。本当に驚かれたのは、この先です。

35歳の追跡 ― 血液検査と診察で見えた「体の健康」

2014年、参加者が30代半ばになったときの調査結果が、科学誌『サイエンス』に発表されました。この調査では、アンケートではなく、実際に血液を採って調べ、医師が診察を行いました。診察する医師には、その人がどちらのグループかは知らされていません。「幼児期の保育の研究で、体の生の数値を比べたのは初めて」と、研究チームは述べています。

結果は、はっきりしたものでした。男性の場合、血圧の上の値(収縮期血圧)の平均は、プログラムを受けなかったグループが143に対して、受けたグループは126。高血圧、肥満、血糖や脂質の異常が重なる「メタボリックシンドローム」と診断された人は、受けなかったグループでは約4人に1人いたのに、受けたグループではひとりもいませんでした。女性でも、おなかまわりの肥満や、高血圧の一歩手前の状態が少ない傾向が見られています。

0〜5歳のときに過ごした保育の違いが、30年後の血圧に表れていた。そう考えると、なんだか不思議で、そして少し背筋が伸びるようなお話です。

なぜ、幼いころの保育が大人の体に届くの?

「どうして?」と思いますよね。実はこの研究チーム自身も、理由をひとつに特定してはいません。研究を長く率いてきたフランセス・キャンベル氏は、考えられる理由として、小児科のこまめなチェック、栄養のよい食事、そして「先の見通しが立つ、ストレスの少ない毎日を過ごせたこと」、さらに参加した子どもが大人になってから教育を受けつづけたことなど、いくつもの要素が重なった可能性を挙げています。

この研究の分析に加わったノーベル経済学賞のジェームズ・J・ヘックマン教授のチームは、幼いころに育った「自分をコントロールする力」や「人とうまくやっていく力」が、大人になってからの食事や運動、健康な生活習慣を選ぶ力につながっていったのではないか、と考えています。血圧という”体の数値”のうしろに、”心の育ち”があった――そんな見方です。

受け取るときの、3つの注意点

うれしい研究ですが、そのまま日本のわが家に当てはめる前に、知っておきたいことが3つあります。

ひとつめは、規模が小さいこと。参加者は111人で、健康の調査に参加したのはその一部(72人)です。数字は、大きな流れを示すものと受け取るのがよさそうです。

ふたつめは、対象が1970年代の米国の、経済的にとても厳しい家庭の子どもたちだということ。研究は「支えが必要な家庭に、質のよい保育が届くと大きな力になる」ことを示したもので、「ふつうの家庭でも保育園に長く通わせるほど健康になる」という話ではありません。

みっつめは、これが”早期教育”の研究ではないということ。文字や計算を早くから教えたわけではなく、大人が子どもの声にこたえ、遊びのなかでことばを重ねていった、その積み重ねが土台でした。「何かをさせなきゃ」と焦る必要はなく、むしろ「いつもの関わりが、こんなに遠くまで届く」と受け取っていただけたらと思います。

仙台のパパママへ ― 今日からできる、”ことば遊び”の小さな習慣

アベセダリアンの保育でくり返されていたことは、特別な教材がなくても、おうちで今日からできることばかりです。

  • 赤ちゃんの「あー」「うー」に、同じ声で返してみる。返ってくると、赤ちゃんはもっと話したくなります
  • おむつ替えや着替えのとき、「足を通すよ」「きれいになったね」と、していることをことばにする
  • おもちゃを差し出してきたら、受け取って名前を言ってから返す。この”往復”が、ことばの土台になります
  • 秋の仙台は、外の空気が気持ちいい季節。散歩中に「風が吹いてるね」「トンボだね」と、見つけたものをいっしょに指さす

どれも1回数秒。「たくさんやらなきゃ」ではなく、気づいたときに1往復。それで十分です。

気がかりなときは、小児科や相談窓口へ

ことばの出方や反応には、大きな個人差があります。「呼んでも振り向かないことが多い」「同じ月齢の子と比べて気になる」など、気がかりが続くときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけの小児科や、仙台市の乳幼児健診・子育て相談の窓口などで、専門家に相談してみてください。血圧や生活習慣など、パパママご自身の健康についても同じです。健康増進普及月間の9月、お子さまと一緒に、ご自身の体もいたわってあげてくださいね。

Family Sitter が大切にしている、”0歳からの会話”

Family Sitter のシッターは、1対1のお預かりだからこそ、お子さまの小さな声や表情に、ひとつひとつこたえることを大切にしています。「今日はこんな声を出して、こんな遊びを楽しんでいました」という様子は、お預かり後のご報告でお伝えしています。生後まもない時期のお預かりや、パパママご自身の通院・健診のあいだのサポートなど、頼れる手が必要なときは、どうぞお気軽にご相談ください。

参考にした情報

  • ノースカロライナ大学 FPG子ども発達研究所「The Carolina Abecedarian Project – Follow-Up Studies」(https://abc.fpg.unc.edu/follow-up-studies/)
  • Campbell, F. A., Conti, G., Heckman, J. J. ほか「Early Childhood Investments Substantially Boost Adult Health」Science, 2014(https://www.science.org/doi/10.1126/science.1248429)
  • シカゴ大学 Center for the Economics of Human Development「The Abecedarian Project」(https://cehd.uchicago.edu/?page_id=6392)
  • 政府広報オンライン「健康増進普及月間」(https://www.gov-online.go.jp/data_room/calendar/202509/event-3597.html)

※本コラムは一般的な情報のご紹介です。お子さまの発達や健康、ご自身の健康について気になることがある場合は、小児科医など専門家にご相談ください。

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