「泣きやませなきゃ」の前に ― 子どもが”気持ちを立て直す力”は、大人と一緒に育っていく
「泣きやませなきゃ」の前に ― 子どもが”気持ちを立て直す力”は、大人と一緒に育っていく
夏休みも、そろそろ終わりが見えてきました。
生活リズムがゆるんで、寝る時間も起きる時間もバラバラ。おでかけが続いて、疲れも溜まっている。そんな今の時期、こんな場面に心当たりはないでしょうか。
「もう帰るよ」の一言で、道の真ん中にひっくり返って泣く。おもちゃを取られて、思いきり友だちを押してしまう。「そんなつもりじゃなかったのに」という顔で、泣きながら怒っている。
そして、そのそばで立ち尽くしながら、こう思ってしまう。
「うちの子、どうしてこんなに気持ちの切り替えが下手なんだろう」
けれど、発達心理学の研究が積み重ねてきた答えは、少し違います。気持ちを立て直す力は、生まれつきの性格ではありません。大人と一緒に何度も練習することで、後からゆっくり育っていく力なのです。
今回は、そのしくみを、日本と海外の研究からやさしく読み解いてみます。
「感情調整」は、性格ではなく”育っていく力”
心理学では、わき上がった気持ちとうまく付き合う力を「感情調整(感情調節)」と呼びます。
大切なのは、これが「怒らない子になること」でも「泣かない子になること」でもない、という点です。感情調整とは、
- 自分の中でいま何が起きているかに気づくこと
- その気持ちを、場面に合った形で表したり、少し抑えたりできること
- 高ぶった気持ちを、時間をかけて元に戻せること
この3つをまとめた力を指します。怒りや悲しみそのものを消す力ではなく、その波にのまれず、岸に戻ってくる力、と言ったほうが近いかもしれません。
そして、この力は1歳や2歳で完成するものではありません。幼児期(およそ1歳半〜6歳)を通じて、まわりの大人や友だちとのやりとりを重ねながら、少しずつ形になっていきます。
東京女子大学で子どもの感情発達を研究している平林秀美先生は、幼児期の感情発達の特徴を「他者の感情を理解できるようになること」と「自分の感情を調整できるようになること」の2つに整理しています。この2つは別々ではなく、車の両輪のように、支え合って伸びていきます。
3歳と4歳のあいだに起きる、小さくて大きな変化
この「育っていく」様子が、とても分かりやすく見える研究があります。
心理学者コール(Cole, 1986)が行った、通称「がっかりするプレゼント」の実験です。研究の手続きはシンプルで、子どもに、明らかに期待はずれのプレゼントを渡し、その瞬間の表情を観察する、というもの。
結果は、年齢によってはっきり分かれました。
ひとりで包みを開けたときは、多くの子がそのまま「がっかりした顔」をします。ここに年齢差はあまりありません。
ところが、プレゼントをくれた人が目の前にいる場面では、様子が変わります。3歳ごろの子は、やはりがっかりした表情がそのまま出てしまう。けれど4歳ごろになると、がっかりを隠して、にっこり笑って「ありがとう」と言える子が出てくるのです。
たった1年ほどの差ですが、ここで起きていることはとても大きな変化です。子どもは、
「いま自分はがっかりしている」→「でも、この場でその顔をすると、相手が悲しむかもしれない」→「だから、ちがう表し方をしよう」
という、いくつもの段階を一瞬でこなしています。
この背景にあるのが、心理学でいう「社会的表示規則」(social display rules)です。「この場面では、どんな気持ちを、どう表すのがよいか」という、その社会や文化のゆるやかなルールのこと。サーニ(Saarni, 1984)以来、幼児がこのルールを少しずつ学んでいくことが繰り返し確かめられてきました。
そして重要なのは、このルールは教科書で習うものではないということです。日々、まわりの大人や友だちと過ごすなかで、子どもが自分で受け取っていくもの。つまり、家庭やお預かりの場での何気ないやりとりが、そのまま学びの場になっているわけです。
※ ここでご紹介した内容は個人差がとても大きく、「4歳になったのにできない」という心配は必要ありません。育ちの順番であって、期限ではありません。
5〜6歳で芽生える「あの子は、あの子」という視点
もうひとつ、就学が近づくころに起きる変化があります。
小さいうちの子どもは、相手の気持ちを想像するとき、「自分だったらどう思うか」を手がかりにします。アイスクリームをもらったら自分はうれしいから、友だちもきっとうれしいはず、というふうに。
これは自然な推測ですが、ときどきズレます。たとえば、自分はカブトムシが大好きでも、友だちは苦手かもしれない。3〜4歳ごろの子は、友だちがカブトムシをもらう場面で「うれしいはず」と考えてしまうことがあります。
ところが5〜6歳ごろになると、相手の性格や好みといった「その人自身の中身」を考えに入れて、気持ちを読めるようになっていく(松永, 2005)。「あの子は虫が苦手だから、きっと困っているかも」と思えるようになるのです。
自分の気持ちを立て直す力と、相手の気持ちを想像する力。この2つがそろってはじめて、「悔しいけれど、あの子にも理由があったのかも」という、いちばん難しい折り合いがつけられるようになります。
保育の現場で、実際に何が起きているか
では、大人はどう関われば、この力を後押しできるのでしょうか。
幼稚園の3歳児クラスを観察した平林先生の研究(2010)が、とても具体的なヒントをくれます。子どもが泣いたり怒ったりしたとき、保育者がどんな関わりをしていたかを記録したところ、多くの場面で、次のような流れが見られたといいます。
1. まず、理由をたずねる
「どうして泣いているの?」と、頭ごなしに止めずに、まず事情を聞く。
2. 状況や、相手の気持ちを整理して伝える
何が起きたのか、相手はどんなつもりだったのかを把握したうえで、子どもに分かる言葉で説明する。
3. ほかの手立てを示す
泣いたり怒ったりしなくても、言葉や行動で解決できることを一緒に確認する。
ここでいちばん大事なのは、ネガティブな感情の表出を、頭ごなしに抑え込んでいないことです。「泣かないの」でも「怒っちゃダメ」でもなく、まず気持ちそのものを認めたうえで、次の一手を渡している。
この関わり方は、心理学者ゴットマン(Gottman, 1997)が名づけた「感情のコーチング(emotion coaching)」と呼ばれるものと重なります。コーチというのは、選手の代わりに走る人ではなく、走り方を横で伝える人。感情のコーチングも、大人が子どもの気持ちを代わりに処理するのではなく、扱い方を隣で手渡していく関わりです。
そして最終的には、大人の手助けがなくても、子ども自身で気持ちを立て直せるようになっていく。これが、感情調整が育つということの中身です。
「一緒に落ち着く」という、最初のステップ
近年の研究では、この過程を「共同調整(co-regulation)」という言葉で捉える見方も広がっています。
子どもが自分ひとりで気持ちを立て直せるようになる前に、まず大人と一緒に落ち着く経験が必要だ、という考え方です。大人の落ち着いた表情、ゆっくりした声、あわてない呼吸。それらが子どもの体に「ここは安全だ」という信号を送り、高ぶった状態から降りてくるのを助けます。
「ひとりで落ち着きなさい」と部屋に置いていくのではなく、「一緒に落ち着こう」と隣にいる。その積み重ねが、やがて「ひとりでも落ち着ける」に変わっていく。
順番が逆にならないこと、これが大切なところです。
なお、日本の保育所保育指針でも「養護」の柱のひとつに「情緒の安定」が掲げられ、子どもの気持ちを受け止め、共感したり代弁したりすることが、自己肯定感と情緒の安定を育てる関わりとして位置づけられています。研究と、日本の保育の現場の指針は、同じ方向を向いています。
今日から試せる、4つの小さな工夫
研究の知見を、家庭で無理なくできる形に落としてみます。完璧である必要はまったくありません。
① 気持ちに、名前をつけてあげる
「悔しかったね」「びっくりしたね」。大人が言葉にすることで、子どもは自分の中で起きていることに輪郭を与えられます。名前がつくと、扱いやすくなります。
② 「なぜ」より先に「どうしたの」
理由を問い詰めるより、まず事情を聞く。保育の現場でも、最初の一歩はここでした。
③ 大人が先に、ひと呼吸おく
子どもは大人の状態をよく見ています。こちらの声が高くなると、子どももさらに高ぶります。まず自分がゆっくり息を吐く、これがいちばん効きます。
④ 落ち着いたあとに、短く振り返る
高ぶっている最中の説教は届きません。おさまってから「さっき、どうしたらよかったかな」と一言だけ。長さより、タイミングです。
そして、いちばんお伝えしたいのは、大人にも余白が要るということです。
共同調整は、大人の側に落ち着きがあってはじめて成り立ちます。寝不足で、家事が山積みで、自分の気持ちすらいっぱいいっぱいのとき、子どもの感情の受け皿になるのは、正直とても難しい。それは能力の問題ではなく、単純に余力の問題です。
疲れている日に完璧を目指さないこと。誰かに少し預けて、ひと息つく日をつくること。それも立派な、子どものための選択です。
気になることがあるときは、専門家に相談を
かんしゃくや気持ちの切り替えには、とても大きな個人差があります。ゆっくりな子もいれば、ある日ふっと変わる子もいます。
ただ、次のようなことが続いて気になるときは、ひとりで抱え込まず、早めに相談してみてください。
- 自分や人を傷つけてしまう行動が繰り返される
- 気持ちの高ぶりが長時間おさまらず、日常生活に支障が出ている
- 保護者の方自身が、つらさや不安を強く感じている
仙台市では、各区の保健福祉センター(家庭健康課)や仙台市児童相談所、発達相談支援センター(アーチル)などで、乳幼児の発達や子育ての相談を受け付けています。通っている園やかかりつけの小児科に、まず一言相談してみるのもよい入り口です。
「相談する」は、行き詰まった人がすることではなく、早めに見通しを持つための手段です。
Family Sitter が大切にしている、”立て直しの時間”
私たち Family Sitter は、仙台でベビーシッター・家事代行・イベント託児をお届けしています。
お預かりの現場では、泣いてしまう場面、怒ってしまう場面が必ずあります。そんなとき、私たちが大切にしているのは、急いで泣きやませないことです。
まず、そばに座る。声のトーンを落とす。「どうしたの」と聞く。そして、落ち着くまで一緒にいる。子どもが自分のペースで岸に戻ってくるのを、隣で待つ。
大人がひとり増えるということは、子どもにとって「一緒に落ち着いてくれる人が、もうひとりいる」ということでもあります。パパママ以外にも、気持ちを受け止めてくれる大人がいる。その経験そのものが、子どもの安心の土台を少し広げてくれます。
そして同時に、パパママご自身が息をつく時間をつくることも、私たちの大事な役目だと思っています。
「今日はもう限界かも」という日。「少しだけ、ひとりで買い物に行きたい」という日。どうぞ、お気軽にお声がけください。
参考にした情報
- 平林秀美「幼児の感情発達」Child Research Net 研究室
https://www.blog.crn.or.jp/lab/09/04.html
- Cole, P. M. (1986). Children’s spontaneous control of facial expression. Child Development, 57, 1309–1321.
- Saarni, C. (1984). An observational study of children’s attempts to monitor their expressive behavior. Child Development, 55, 1504–1513.
- 松永あけみ(2005)『幼児期における他者の内的特性理解の発達』風間書房
- 平林秀美(2010)「子どもの感情制御」菊池章夫・二宮克美・堀毛一也・斎藤耕二(編著)『社会化の心理学/ハンドブック』川島書店, pp.353–366.
- Gottman, J. (1997). The heart of parenting: Raising an emotionally intelligent child. Simon & Schuster.(戸田律子訳『0歳から思春期までのEQ教育』講談社, 1998)
- 厚生労働省「保育所保育指針」(平成29年厚生労働省告示第117号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1
- Silkenbeumer, J. et al. “Co- and self-regulation of emotions in the preschool setting.” Early Childhood Research Quarterly
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0885200618300188
※ 本記事は研究・公的資料をもとにした一般的な情報提供です。お子さまの発達についてのご心配は、かかりつけの小児科や各区の相談窓口など、専門家へご相談ください。
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