1日5分の読み聞かせが、子どもの脳に届くもの ― 研究でわかってきた、絵本タイムのちから
1日5分の読み聞かせが、子どもの脳に届くもの ― 研究でわかってきた、絵本タイムのちから
ある日の寝る前、お子さまから「絵本よんで〜」と差し出される1冊。
正直に言うと、家事も残っているし、自分もちょっと疲れていて、「またこの本?」「いま、なんで?」と感じる夜もありますよね。
でも、そんな“ふつうの絵本タイム”が、子どもの脳と心にとってとても大切な時間であることが、近年の研究で少しずつ分かってきています。
今日は、忙しいママ・パパに知っておいてほしい、「絵本の読み聞かせ」と子どもの発達のお話を、研究をもとにやさしくまとめてみました。
1. 絵本を読んでもらっている時、子どもの脳では何が起きているの?
アメリカ・シンシナティ小児病院の小児科医、ジョン・ハットン博士は、3〜5歳の子どもたちを対象に、絵本を読んでもらっている時の脳活動を fMRI(機能的MRI)という機械で調べました。
ハットン博士の研究グループは、子どもたちに「音声だけのお話」「絵本+大人の声」「アニメ動画」を見せ、それぞれの状況で脳のどこが、どんなふうに動いているのかを比較しました。
ざっくりまとめると、こんな結果でした。
- 音声だけだと、言葉を聞きとる部分はがんばっているものの、脳全体のつながりは弱め
- アニメだけだと、映像を受け取る部分は活発でも、想像する力や言葉と結びつける働きはあまり起きない
- 絵本+大人の声で読んでもらった時に、視覚野(絵を見る部分)・言語野(言葉を理解する部分)・「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる、想像や物語をふくらませるネットワークがバランスよく同時に動いた
つまり絵本の読み聞かせは、「子どもの脳のいろいろな部分を、いっしょに育てる時間」になっているということです。
日本の研究でも近い結果が報告されています。兵庫教育大学・森慶子先生の研究では、NIRS(近赤外光で脳の血流を測る装置)を使って、絵本を読んでもらっている時と自分で黙読している時、自分で音読している時の脳の動きを比べたところ、読み聞かせを聞いている時のほうが、前頭前野の活動が広く・しっかり見られたと報告されています。
前頭前野は、考えたり、気持ちを整えたり、想像したりする時に大きな役割を果たす場所。子どもにとって、絵本を読んでもらう時間は、ただ“お話を聞いている”だけではなく、脳の大切な部分をたっぷり使う時間なのですね。
2. 「読み聞かせの多い家の子は学力が高い」って本当? ― 文科省の調査から
「読み聞かせをすると、勉強ができる子になる」というのは、よく聞く話です。
これはどこまで本当なのでしょうか。
文部科学省が実施した「平成25年度 全国学力・学習状況調査」の分析では、家庭での読書環境について保護者にアンケートを行い、子どもの学力テスト結果との関係を調べています。
その結果、
- 子どもが小さかった頃から、絵本を読み聞かせていた家庭の子どもは、
- 小学生・中学生になってからの学力テストで、
- 国語だけでなく、算数(数学)でも、平均正答率が高い傾向にあった
ということが報告されています(参考にした情報元:文部科学省・子どもの読書活動の推進に関する有識者会議 論点まとめ、こども読書ポータル)。
もちろん、家庭の状況は一人ひとり違いますし、読み聞かせだけで学力が決まるわけではありません。「読み聞かせをしていなかったから心配…」と感じる必要はまったくないのですが、
- 短い時間でも「親子で同じものに向き合う体験」が積み重なること
- 絵本を通じて、知らない言葉や世界にふれること
これらが、長い目で見て子どもの“学ぶ力”の土台になっていると考えられます。
3. 体温が伝わる距離での読み聞かせ ― 親子のホルモンも変わる
研究の世界では、「絵本の読み聞かせ」を、認知や言葉の発達の話としてだけでなく、親子の関係(愛着)の文脈でも捉えるようになってきました。
ポイントは、読み聞かせの“姿勢”です。
膝の上に乗っている、ひざ並べて座っている、布団の中で身体を寄せている――こうした距離は、ふだんは意識しないだけで、実はとても特別なスキンシップの時間です。
このような触れ合いの中では、親子双方の脳でオキシトシンというホルモンの分泌が促されることがわかっています。オキシトシンは「愛情ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれ、
- 安心感や心地よさを感じやすくする
- 相手への信頼感を高める
- ストレスを和らげる
といった働きがあります(参考にした情報:ベネッセ こどもまなび☆ラボ、たまひよ、ボーネルンド「あそびのもりオンライン」)。
子ども側だけでなく、読んであげている大人の側にもオキシトシンが出る、というのが大事なポイントです。
「今日ばたばただったな…」「ちょっと怒りすぎたかも」と感じる夜こそ、5分だけ絵本に逃げ込んでみる、というのは、子どもの愛着形成にも、ママ・パパ自身の気持ちにも、やさしい習慣になりそうです。
ただし、「オキシトシンを出すために読まなきゃ」と頑張りすぎる必要はありません。
気持ちに余裕がない日は、無理に最後まで読まず、ぱらぱらめくって眺めるだけでも大丈夫。読み聞かせは“きちんとやる勉強”ではなく、「ふれあい時間のきっかけ」くらいに考えるのが、長く続けるコツです。
4. 仙台・宮城でも広がる「ブックスタート」
「赤ちゃんに、絵本ってまだ早くないかな?」と感じる方もいらっしゃいます。
でも実は、日本では行政・図書館・ボランティアが連携して、赤ちゃんと絵本との最初の出会いを応援する活動が広がっています。
それが「ブックスタート」事業です。
0歳児健診や3・4か月児健診の機会に、赤ちゃんと保護者に絵本と読み聞かせ体験をプレゼントする、というもので、NPO「ブックスタート」が中心となって、全国の自治体と協力して進めています。
NPOブックスタートが公開している2025年のアンケート調査では、全国の988市区町村から回答があり、地域ぐるみで赤ちゃんと本との出会いを支える仕組みとして根づいてきていることが報告されています(参考にした情報:NPOブックスタート公式サイト、国立国会図書館カレントアウェアネス)。
宮城県でも、宮城県図書館が大人向けに読み聞かせのポイントを発信していたり、石巻市など複数の自治体が3・4か月児健診の場で絵本を手渡しているなど、地域ぐるみの取り組みが続いています。
さらに、2025年には「ブックスタート全国研修会」が宮城で開催されており、東北・仙台エリアでも“絵本のはじめの一歩”を大切にする動きが広がっていることがうかがえます。
仙台市図書館でも、絵本に親しむためのコーナーやおはなし会などが用意されており、赤ちゃん連れで利用しやすい工夫がされています。「家にあまり絵本がない」「どんな本を選んだらいいか分からない」と感じる方は、お近くの図書館に足を運ぶところから始めてみるのも、おすすめです。
5. 今日からできる、無理しない読み聞かせのヒント
ここまで研究のお話を中心にしてきましたが、「ちゃんと読まなきゃいけない」と感じてしまうと、せっかくの絵本タイムがしんどくなってしまいます。
最後に、知っておきたいポイントとして、ご家庭で気軽にできる工夫をいくつかご紹介します。
- 長さよりも頻度:1冊を10分かけるより、短い絵本を寝る前に1〜2冊、毎日のリズムにする方が続けやすく、愛着形成にもプラスです。
- 「同じ本ばかり」も大歓迎:子どもが繰り返し同じ本を持ってくるのは、安心感とパターン理解のサイン。何度でも読んでOKです。
- 読み方は“ふつう”でいい:上手な読み方や役作りより、ママ・パパのいつもの声・抑揚がいちばん安心です。
- 「これ何?」「どっちが好き?」と少し声をかける:絵本の途中で短いやりとりをはさむと、語彙と物語理解の両方に効くとされます(参考にした情報:京都府立大 雨越論文 ほか)。
- 疲れた日は“絵だけツアー”でもOK:本文を読まず、絵を指さしながら一緒に眺めるだけでも、子どもにとっては立派な読書体験になります。
“きちんとやる”ことよりも、“一緒にめくる時間”を続けることのほうが、ずっと大切。
完璧な読み手にならなくていい、というのは、研究の世界からのうれしいエールでもあります。
6. 気になることがあれば、専門家に相談を
絵本の読み聞かせは、基本的にはどんな子どもにとってもおすすめできる関わりです。
ただし、「言葉の発達がゆっくりに感じる」「目が合いにくい気がする」「絵本を見ようとせず、こちらの声にも反応しづらい」など、気になるサインが続く場合には、ご家庭だけで判断せず、
- 地域の子育て支援センター
- 保健センター・健診の場での発達相談
- 小児科・耳鼻科などのかかりつけ医
- 言語聴覚士などの専門家
への相談をおすすめします。早めに専門家の目を借りることは、決して「大ごとにする」ことではなく、お子さまの今に合った関わり方や、必要なサポートにつながる第一歩です。
7. Family Sitter からのおすそ分け
Family Sitter は、仙台を拠点に、ベビーシッター・家事代行・イベント託児などを通じて、ママ・パパの「もう一人の信頼できる大人」をめざしているサービスです。
ご利用いただく時間の中では、ご家庭にある絵本を使った読み聞かせや、お子さまの好きな本を一緒に眺める時間も、よくいただくリクエストの一つです。
「夕方の家事の間だけ、絵本でゆっくり過ごしてあげてほしい」
「兄弟に同時に読み聞かせるのが大変なので、下の子だけ専属で関わってほしい」
「自分が疲れているので、寝かしつけの前の読み聞かせをお願いしたい」
こうした“ちょっとした時間”のお手伝いも、ぜひお気軽にご相談ください。
頼れる大人が複数いることは、子どもにとっても、ご家族全体にとっても、大きな安心になります。
参考にした情報
- 文部科学省「子どもの読書活動の推進に関する有識者会議 論点まとめ」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/040/attach/1402566.htm
- こども読書ポータル「はじめてみませんか 絵本の読み聞かせ」
https://kodomodokusyo.go.jp/yomikikase/index.html
- 森慶子(兵庫教育大学大学院)「『絵本の読み聞かせ』の効果の脳科学的分析 ―NIRSによる黙読時,音読時との比較・分析―」(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sor/56/2/56_89/_pdf
- 東京都生涯学習情報「脳科学の先生が考える“絵本の読み聞かせ”って?」
https://www.syougai.metro.tokyo.lg.jp/sesaku/advice/list/oshiete010.html
- NPOブックスタート公式 https://www.bookstart.or.jp/
- 国立国会図書館 カレントアウェアネス「ブックスタート事業に関するアンケート調査2025」
https://current.ndl.go.jp/car/278377
- ブックスタート全国研修会2025 in 宮城 https://www.bookstart.or.jp/5979/
- 宮城県図書館 読み聞かせについて
https://www.library.pref.miyagi.jp/child/yomikikase.html
- 仙台市図書館 https://lib-www.smt.city.sendai.jp/?page_id=398
- ベネッセ こどもまなび☆ラボ「『愛情ホルモン』オキシトシンが子どもの成長を促す!」
- たまひよ「注目の愛情ホルモン『オキシトシン』親子の絆が強くなり、赤ちゃんの情緒も育つ」
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=84660
- 京都府立大 雨越「幼児期における絵本の読み聞かせと認知能力との関連」
https://www.kpu.ac.jp/media/amagoshi.pdf
※ 本記事は、上記研究・情報をもとに、ご家庭での目安・参考としてまとめたものです。お子さまの発達には個人差があります。気になる症状や心配ごとがある場合は、必ず医師・保健師・心理士などの専門家にご相談ください。
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