「ひま〜」の時間に、意味がありました ― “予定のない時間”と、自分で決める力を研究からやさしく
「ひま〜」の時間に、意味がありました ― “予定のない時間”と、自分で決める力を研究からやさしく
ざっくりいうと
- アメリカ・コロラド大学ボルダー校の研究チームが、70人の6歳児について、保護者に1週間すべての活動を記録してもらい、過ごし方と力の育ちを比べました
- 「予定のない時間」が多い子どもほど、大人に言われなくても自分で決めて動く力の得点が高い、という関係が見つかりました
- 反対に、「予定のある時間」が多いほど、その得点は低い傾向でした
- ただしこれは「関係があった」というところまで。予定のない時間が原因でそうなった、とまでは示せていません
- 日本の幼稚園教育要領でも、子どもが自分から始める遊びは「重要な学習」と位置づけられています
秋は、予定がふえる季節ですね
9月も後半。仙台の街も、朝晩はずいぶん涼しくなりました。
運動会の練習が始まって、発表会の話が出て、そろそろ来年度の習い事のことも気になってくる。秋は、家族の予定表が少しずつ埋まっていく季節かもしれません。
そんななか、日曜の午後にお子さんが「ひま〜」と言いながら床に寝転がっていると、なんだかこちらが落ち着かなくなる。「何か用意してあげなきゃ」「どこかに連れて行かなきゃ」と、つい思ってしまう。
そんな日はありませんか。
今日は、その気持ちを少しだけ軽くしてくれるかもしれない研究をご紹介します。
「自分で決めて、動く力」という視点
研究の話に入る前に、ひとつだけ言葉の整理をさせてください。
子どもが育っていくなかで、「実行機能」と呼ばれる力があります。目標に向かって行動を組み立てたり、いま必要のないことを我慢したり、ひとつのことにこだわりすぎずに切り替えたりする、脳のはたらきのことです。
この実行機能には、大きく2つの使われ方があります。
ひとつは、大人から「これをやってね」と言われたことに向かって、集中して取り組むとき。もうひとつは、誰にも言われないところで、自分で「次はこれをやろう」と決めて動くとき。
後者を、研究では「自己主導の実行機能」と呼びます。今日のコラムの主役は、こちらの力です。
積み木で何かをつくり始めて、途中で「やっぱり違うな」と気づいて形を変える。友だちと遊んでいて、飽きてきたから別の遊びを提案する。そういう場面で使われている力、とイメージしていただくと近いかもしれません。
コロラド大学の研究 ― 6歳の1週間を、まるごと記録した
2014年、アメリカ・コロラド大学ボルダー校の研究チーム(Barker氏、Munakata氏ほか)が、学術誌『Frontiers in Psychology』にひとつの論文を発表しました。
研究の方法は、とてもシンプルなものでした。
70人の6歳の子どもについて、保護者に1週間、日々の活動をすべて記録してもらう。
そして記録された活動を、「予定のある(構造化された)時間」と「予定のない(構造化されていない)時間」に分類しました。この分類は、研究チームが独自に考えたものではなく、経済学の分野で以前から使われてきた生活時間の分類をそのまま借りています。
子どもたちの「自己主導の実行機能」は、よく使われている言葉の流暢性の課題(あるカテゴリーの仲間をできるだけたくさん挙げてもらい、どこで別の切り口に切り替えるかを自分で決める課題)で測られました。
結果は、こうでした。
- 予定のない時間が多い子どもほど、自己主導の実行機能の得点が高かった
- 予定のある時間が多い子どもほど、その得点は低い傾向だった
研究チームは、分類に疑問の余地があるもの(たとえばテレビや動画を見る時間)を取り除いて何度か計算をやり直しましたが、傾向は変わらなかったと報告しています。
「予定のない時間」には、何が入っていた?
ここが、いちばん驚くところかもしれません。
この研究でいう「予定のない時間」は、特別なプログラムや教材のことではありませんでした。
予定のない時間に入るもの
- ひとりでの自由あそび、お友だちとの自由あそび
- 人に会いに行くこと、おでかけ
- 動物園や街を見て歩くこと
- 絵本を読む時間
- テレビや動画を見る時間
予定のある時間に入るもの
- 習い事(運動系・それ以外)
- 家のお手伝い
- 宗教にかかわる活動
- 宿題
どちらにも入らないもの
- 睡眠、食事、学校(園)にいる時間、移動の時間
つまり、「予定のない時間」とは、ごく当たり前の、家庭の日常そのものでした。
お子さんが床にごろんとしてブロックをいじっている時間も、公園でとくに何をするでもなく葉っぱを集めている時間も、ここに入ります。
いちばん大事な、受け取り方の注意
ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。
この研究は、「予定のない時間が多いと、その力が育つ」と証明したわけではありません。
調べたのは、2つのことの「関係」です。関係があるからといって、片方がもう片方の原因だとは言えません。
たとえば、もともと自分で決めて動くのが得意な子のご家庭では、親御さんが予定を入れすぎなくても安心していられる、という順番かもしれません。あるいは、まったく別の要因が両方に影響しているのかもしれません。
研究チーム自身も論文のなかで「これは最初の一歩」と述べており、時間をかけて同じ子どもたちを追いかける研究が今後必要だとしています。
ですから、このコラムは「習い事をやめましょう」というお話ではまったくありません。
お伝えしたいのは、もう少しだけ控えめなことです。
予定表の空白を、あわてて埋めなくても大丈夫。
それは「何もしていない時間」ではなく、子どもが自分で考えている時間かもしれない、ということです。
日本の指針が掲げる「自立心」という姿
実はこれ、日本の教育が目指している姿ともよく重なります。
文部科学省の「幼稚園教育要領」(平成29年3月告示)には、幼稚園を卒園するころまでに育ってほしい10の姿が示されています。そのひとつが「自立心」です。
身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で,しなければならないことを自覚し,自分の力で行うために考えたり,工夫したりしながら,諦めずにやり遂げることで達成感を味わい,自信をもって行動するようになる
読んでいて、気づかれたでしょうか。
「自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら」。これはまさに、今日お話ししてきた「自分で決めて、動く力」そのものです。
そしてこの姿は、テストや課題をこなすことでは育たない、とも書かれています。育つ場所として想定されているのは、「身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で」 ― つまり、子どもが自分から関わっていく日々の生活と遊びのなかなのです。
コロラド大学の研究は、遠い国の話に見えて、日本の指針が昔から目指してきたものを、別の角度から照らしてくれたと言えるかもしれません。
世界の小児科医も、「遊び」を勧めています
もうひとつ、心強い資料があります。
米国小児科学会(AAP)が2018年に発表した臨床報告「The Power of Play(遊びの力)」です。
小児科医に向けて書かれたものですが、内容はご家庭にもそのまま届きます。要点はこんなところです。
- 遊びは脳の構造とはたらきを育て、実行機能の発達を支える
- 遊びを通して身につく「協力する力」「問題を解く力」「考えをつくり出す力」は、教え込む形の学習と同じか、それ以上に将来につながる
- 高価なおもちゃは必要ない。木のスプーン、積み木、ボール、クレヨン、空き箱でじゅうぶん
- 何より、子どもに遊びの主導権を渡すことが大切
「シンプルな物ほど、子どもは創造的に使える」という一文は、おもちゃ売り場で迷ったときに思い出したい言葉かもしれません。
今日からできる、4つの小さなこと
予定をごっそり減らす必要はありません。忙しい毎日のなかで、できそうなところから。
1. 1週間に半日だけ、白いままの時間を残す
土曜の午前でも、日曜の午後でも。「ここは何も入れない」と決めた時間をつくってみてください。何も起きなくて構いません。
2. 「ひま」と言われても、すぐに提案しない
「じゃあこれやったら?」と言いたくなるのを、少しだけこらえてみる。退屈は、次の遊びが生まれる前の助走かもしれません。
3. 紙・空き箱・積み木を、手の届く場所に置く
何にでも変身できるものが、子どもの高さにあること。それだけで、遊びは勝手に始まります。
4. 公園までの道を、寄り道つきで歩いてみる
目的地に急がず、途中で止まるのを許す。仙台はこれから、落ち葉とどんぐりの季節です。
気がかりなことがあるときは
お子さんの集中の続き方や、切り替えの難しさについて気になることがあるときは、ご家庭だけで抱えこまないでください。
仙台市では、各区の保健福祉センターや、地域の子育て支援施設(のびすく など)で相談を受け付けています。園の先生やかかりつけの小児科でも大丈夫です。発達には一人ひとり大きな幅があり、早めに専門家に相談することは、心配を確かめるためだけでなく、日々の関わり方のヒントをもらうためにも役立ちます。
このコラムは研究の紹介であり、診断や治療にかわるものではありません。気になることがあるときは、必ず専門家にご相談ください。
Family Sitter が大切にしている、”決めない時間”
わたしたち Family Sitter 仙台がお子さんをお預かりするとき、はじめに「今日はなにする?」と聞くことを大切にしています。
こちらが用意したメニューを順番にこなしてもらう時間ではなく、その子がやりたいことから始まる時間にしたいからです。
そして、遊びの途中でむやみに切り上げません。積み木が崩れて、しばらく黙って眺めている。その「何もしていないように見える時間」こそ、頭のなかがいちばん動いているときだと思っています。
大人が退屈に見える時間ほど、子どもの中では忙しい。
シッターがそばで待つ時間も、わたしたちにとっては立派な保育の時間です。
ご家庭の予定表に、少しだけ白い時間をつくりたいとき。あるいは、その白い時間をだれかに見守ってもらいたいとき。どうぞお声がけください。
参考にした情報
- Barker, J. E., Semenov, A. D., Michaelson, L., Provan, L. S., Snyder, H. R., & Munakata, Y.「Less-structured time in children’s daily lives predicts self-directed executive functioning」Frontiers in Psychology, 2014年6月17日公開(DOI: 10.3389/fpsyg.2014.00593)
- コロラド大学ボルダー校 プレスリリース「Kids whose time is less structured are better able to meet their own goals」2014年6月18日
- 文部科学省「幼稚園教育要領」平成29年3月31日 文部科学省告示第62号(平成30年4月1日施行)
- Yogman, M., Garner, A., Hutchinson, J., Hirsh-Pasek, K., & Golinkoff, R. M.「The Power of Play: A Pediatric Role in Enhancing Development in Young Children」Pediatrics, 2018年9月, 142(3): e20182058(米国小児科学会 臨床報告)
- ベネッセ教育総合研究所「第6回 幼児の生活アンケート」2022年3月実施(幼児の生活時間・習い事・遊びの実態調査)
※このコラムは、公開されている研究と公的な資料をもとに、子育て中のパパママ向けにやさしく整理したものです。研究結果の受け取り方については、本文中の注意点もあわせてお読みください。
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