「たくさん話しかけなきゃ」より大切なこと ― 子どものことばを育てる“おしゃべりの往復”を研究からやさしく
「たくさん話しかけなきゃ」より大切なこと ― 子どものことばを育てる“おしゃべりの往復”を研究からやさしく
「もっと話しかけたほうがいいって聞くけど、足りているのかな」。仙台でお子さんを育てるパパママから、よくうかがうお悩みのひとつです。家事に追われて無口になってしまった日や、つい相づちだけで終わってしまった日に、ちょっと胸がチクッとする ― そんな経験、ありませんか。
でも、最近の研究を読み解くと、少し肩の力が抜けるかもしれません。子どものことばを育てるカギは、「どれだけたくさんの言葉を浴びせるか」という“量”だけではなく、「どれだけ気持ちのこもった“やりとり”を重ねたか」にある、とわかってきたのです。今日は、専門的な研究を、仙台のパパママの毎日にそっと寄り添う形でご紹介します。
“3000万語の差”という、有名な研究
ことばの発達の話でよく登場するのが、アメリカの心理学者ハートとリスリーが1995年に発表した研究です。家庭での会話を長く観察したところ、家庭環境によって、子どもが3〜4歳までに耳にする言葉の数に大きな差が生まれ、その差はおよそ3000万語にもなる、と推計されました。「たくさん言葉を聞いて育った子は、語彙も豊かになりやすい」というこの報告は、世界中の子育て・教育の取り組みに大きな影響を与えました。
ただ、ここで大切なのは、この研究が近年“見直し”の対象にもなっている、ということです。その後の研究では、「単純に聞いた言葉の数」と「家庭の背景」「子どもの育ち」の関係は、当初思われていたほど一直線ではない、という指摘も出ています。つまり、「言葉のシャワーを浴びせた数」だけで子どもの将来が決まるわけではない、ということ。「うちは口数が少なめだから…」と落ち込む必要はないのです。
では、本当に効いているものは何なのでしょうか。
カギは“量”ではなく、“会話のキャッチボール”
その問いに、ひとつの大きなヒントをくれたのが、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームが2018年に発表した研究です(Romeo ほか、心理学の専門誌『Psychological Science』掲載)。タイトルはずばり「3000万語ギャップを超えて」。研究チームが注目したのは、言葉の“数”ではなく、大人と子どもの会話の“往復(ターン)”の回数でした。
会話の往復とは、たとえば子どもが「わんわん」と言ったら、大人が「ほんとだ、わんわんいるね」と返し、子どもがまた「おおきい」とつなぐ ― この「言って・返して・また言って」のキャッチボールのことです。
研究の結果はとても示唆に富むものでした。この“往復の回数”が多い子どもほど、語彙や文法といったことばの力のテスト成績が高い傾向がありました。さらに、子どもが物語を聞いているときの脳のはたらきを調べると、ことばに関わる脳の部分(ブローカ野と呼ばれる領域)の活動とも関係していたのです。しかも、これらの関係は、「ただ聞いた言葉の数」との関係よりも強かった、と報告されています。
ここからわかるのは、子どものことばを育てるのは、一方的にたくさん話して聞かせることそのものよりも、子どもと“やりとり”を交わすことだ、ということ。英語ではよく「talk with children, not just to them(子どもに一方的に話すのではなく、子どもと一緒に話す)」と表現されます。テレビや動画から流れてくる大量の言葉より、たとえ短くても、目の前のあなたとの“往復”のほうが、ずっと栄養になるのですね。
その関わりには、すてきな名前があります ―「サーブ&リターン」
この“やりとり”を、わかりやすい言葉で表したのが、ハーバード大学の「子どもの発達センター(Center on the Developing Child)」が広める「サーブ&リターン」という考え方です。
テニスや卓球で、相手のサーブを打ち返すように、子どもが出す“サイン”に大人が応える。これがサーブ&リターンです。子どもの「サーブ」は、言葉だけとはかぎりません。赤ちゃんの「あー」「うー」という声、指さし、こちらをじっと見る視線、おもちゃを差し出すしぐさ ― そのすべてが「ねえ、見て」「これ、なあに」というサーブです。そこに大人が、まなざしや言葉、やさしいスキンシップで「リターン」を返す。この小さな往復の積み重ねが、脳の回路を少しずつ太く、しっかりとしたものに育てていく、とされています。
同センターは、サーブ&リターンを実践する手がかりとして、次の5つのステップを紹介しています。
- 子どもが何に注目しているかに気づく ― 子どもの視線や指さしの先を見てみましょう。
- 同じものを見て、応える ― 「同じものを見ているよ」と、まなざしや声で返します。
- 名前をつける(言葉にする) ― 「わんわんだね」「あか、きれいだね」と、子どもが見ているものに言葉を添えます。
- 順番を待つ(“間”をとる) ― 返したあとは、少しだけ待ちます。子どもが反応するには、大人が思うより時間がかかるもの。この“間”が、次のサーブを引き出します。
- 終わりや切り替えのサインに気づく ― 子どもが視線をそらしたり、別のものに興味を移したら、それも大切なサイン。無理に続けず、子どものペースを尊重します。
特別な教材も、英才教育もいりません。お散歩の途中、ごはんの支度のあいま、お風呂の時間。その「ながら」のなかにある、ほんの数十秒のやりとりこそが、いちばんの学びの時間なのです。
今日からできる、小さな“返し方”
肩の力を抜いて、今日から試せることをいくつかご紹介します。
子どもが何かを指さしたら、「○○だね」と言葉にして返してみてください。子どもが「ぶーぶー」と言ったら、否定や言い直しをせず、「ぶーぶー、はやいね」とそのままくり返して、ひとことを足す。「これなあに?」と聞いたあとは、答えを急がず、少しだけ待ってみる。転んで泣いてしまったときは、「びっくりしたね」「いたかったね」と、気持ちのほうを言葉にしてあげる。どれも、たった数秒でできる“リターン”です。
うまく返せる日もあれば、疲れて相づちだけになる日もあって当然です。毎回完璧でなくて大丈夫。大切なのは、一日のなかに小さな往復がいくつかあること、そして、その積み重ねが続いていくことです。
そしてもうひとつ。子どもにとって、“やりとりを返してくれる大人”は、多ければ多いほど心強い存在です。ママ・パパだけが抱え込まなくていいのです。祖父母、保育者、そして私たちのようなシッターも、子どものことばを一緒に育てる“もう一人のおしゃべり相手”になれます。
おわりに ― Family Sitter の想い
Family Sitter 仙台では、お子さん一人ひとりの「サーブ」を、ていねいに受けとめることを大切にしています。指さしのその先を一緒に見て、声に耳をかたむけ、ことばのキャッチボールをそっと続ける。そんな関わりを通して、お子さんの「言いたい」「伝えたい」の芽を、パパママと一緒に育てていけたら、と願っています。
「最近、ゆっくり子どもの話を聞けていないかも」。そんなときは、少しだけ私たちを頼ってみてください。大人の心にゆとりが戻ると、不思議とおしゃべりの往復も増えていくものです。
なお、ことばの育ちには大きな個人差があります。発語やことばのやりとりについて気がかりが続くときは、ご自身を責めず、かかりつけの小児科や、仙台市の乳幼児健診での発達相談、地域の子育て相談窓口など、専門家にご相談くださいね。
参考にした情報
- MITニュース「会話の往復が子どもの脳の言語反応を高める」(2018年2月)
- Romeo ほか (2018)「Beyond the 30-Million-Word Gap(3000万語ギャップを超えて)」『Psychological Science』
- ハーバード大学 子どもの発達センター「サーブ&リターン」および実践の5ステップ
- Hart & Risley (1995) 語りかけ語数に関する研究と、近年の再検証に関する解説
この記事は、一般的な情報提供を目的としています。お子さんのことばや発達についてご心配なことがある場合は、専門家にご相談ください。
この記事をシェアする