「イヤイヤ!」はわがままじゃない ― イヤイヤ期を発達心理からやさしく読み解く
「イヤイヤ!」はわがままじゃない ― イヤイヤ期を発達心理からやさしく読み解く
朝の着替えで「イヤ!」。せっかく作ったごはんに「イヤ!」。「自分でやる!」と言ったのに、できなくて大泣き。そして、お店の床に寝転んで動かない――。
いわゆる「イヤイヤ期」。毎日繰り返されると、「しつけが悪いのかな」「どうしてうちの子だけ」と、ママ・パパの心が削られてしまうこともありますよね。本当に、おつかれさまです。
でも、発達心理学の研究から見ると、この「イヤ」は困ったわがままではなく、子どもの心が順調に育っているサインでもあります。今日は、イヤイヤ期(専門的には「第一次反抗期」と呼ばれます)のしくみを、研究をもとにやさしくひもといていきます。読み終えたころには、あの「イヤ」が少しだけ愛おしく見えるかもしれません。
ざっくりいうと
イヤイヤ期は、おおむね1歳から2〜3歳ごろにピークを迎える、子どもの「自分」が芽生える時期です。「やりたい」という気持ち(自己主張)は早くぐんと育つ一方で、それを「我慢する」力(自己抑制)はあとからゆっくり育ちます。この二つの育つスピードの差が、イヤイヤの正体のひとつです。つまり、わざと困らせているのではなく、「気持ちはあるのに、まだ自分でうまく抑えられない」時期なのです。
「イヤ」は、”自分”が芽生えたサイン
心理学者のエリクソンは、人の一生を8つの段階に分けて発達課題を整理しました。そのなかで、幼児期前期(おおむね1〜3歳)の課題を「自律性 対 恥・疑惑」と呼んでいます。
少しかみ砕くと、この時期の子どもは「自分のことは自分でやりたい」という気持ち(自律性)が芽生えてきます。それまで親に手伝ってもらっていた着替えや食事を「自分で!」とやりたがるのは、まさにこの自律性が育っている証拠です。
ところが、やりたい気持ちはあっても、体や手先はまだ思うように動きません。「自分でやりたいのに、できない」。そのもどかしさが、大きな泣き声や「イヤ!」となってあふれ出ます。だからこそ、ここで頭ごなしに「ダメ」とやる気を折ってしまうより、挑戦する気持ちをそっと支えてあげることが、その子の自信につながっていくと考えられています。
心には、二つのアクセルがある ― 自己主張と自己抑制
日本の発達心理学を切り開いた研究者のひとり、柏木惠子先生(東京女子大学名誉教授)は、就学前の子どもを対象に「自己」がどう育つかを丁寧に調べました。その研究では、自分の気持ちや行動をコントロールする力(自己制御)には、大きく二つの面があると整理されています。
ひとつは「自己主張」。これは「やりたい」「イヤだ」と自分の意思をしっかり出す力です。もうひとつは「自己抑制」。こちらは「我慢する」「順番を待つ」「今はやめておく」といった、ブレーキをかける力です。
大切なのは、この二つが育つ順番です。研究では、自己主張のほうが先に育ち、自己抑制はそのあとに、より時間をかけて育っていくことが示されています。イヤイヤ期は、ちょうど自己主張がぐんと伸びる一方で、自己抑制がまだ追いついていない時期。だから「やりたい」が前に出やすく、「我慢」が難しいのです。これは発達の自然な順序であって、その子の性格の問題でも、しつけの失敗でもありません。
「我慢する力」は、あとからゆっくり育つ
では、その「我慢する力」は、いつどのように育つのでしょうか。近年さかんに研究されているのが「実行機能」と呼ばれる心の働きです。京都大学の森口佑介先生らの研究によると、実行機能とは、思考・行動・感情をコントロールするための力で、大きく「欲しい気持ちを抑える力(抑制する力)」と「頭を切り替える力(柔軟に対応する力)」の二つの側面があるとされています。
この実行機能は、脳のなかでも「前頭前野」と呼ばれる、おでこのあたりの部分が深く関わっています。前頭前野は発達がとてもゆっくりで、幼児期から少しずつ育ち、大人になるまで長い時間をかけて成熟していきます。言いかえれば、2〜3歳の子どもにとって「ぐっと我慢する」「気持ちをすぐ切り替える」は、まだ脳が育っている途中の、とても難しい課題なのです。
研究では、感情がからむ場面で働く「ホットな実行機能」と、落ち着いた場面で働く「クールな実行機能」が区別されています。お菓子を前にして「あとでね」を我慢するのは、まさにホットな実行機能が試される場面。こうした力は、日々の安心できる関わりのなかで、ゆっくりと育っていきます。
なぜ、2歳ごろにピークが来るの?
ここまでをまとめると、イヤイヤ期の背景が見えてきます。「やりたい」というアクセル(自己主張・自律性)は、2歳前後でぐんと強くなります。ところが、それを抑えるブレーキ(自己抑制・実行機能)は、まだ育っている途中。このアクセルとブレーキの「差」がいちばん大きくなるのが、ちょうど2歳ごろなのです。
だからこの時期の子どもは、自分でも気持ちをもてあましてしまいます。本人もどうしていいか分からず、泣いたり怒ったりしている――そう考えると、「魔の2歳児」も少し見え方が変わってきませんか。困らせようとしているのではなく、「育ちの真っ最中」。そう思えるだけで、向き合う気持ちが少しやわらぐかもしれません。
今日からできる、関わり方のヒント
理屈は分かっても、目の前で泣かれると大変なのが本音です。完璧を目指す必要はまったくありません。できそうなものを、ひとつだけ試すつもりで十分です。
まず、気持ちを受けとめることから。「イヤだったね」「自分でやりたかったね」と、子どもの気持ちを言葉にして返してあげると、それだけで落ち着くことがあります。自分の気持ちを大人に分かってもらえる経験は、やがて自分で気持ちを扱う力の土台になります。
次に、選ばせてみること。「着替えるよ」ではなく「赤い服と青い服、どっちにする?」と聞くと、「自分で決めたい」気持ちが満たされ、すんなり進むことがあります。
そして、落ち着くまで待つこと。かんしゃくの最中は、言葉での説得はなかなか届きません。危なくない範囲で、そばで見守りながら波が引くのを待つほうが、結果的に早く落ち着くこともあります。
うまくいかない日があって当たり前です。親だっていつも穏やかではいられません。「今日はうまく対応できなかった」と思う日があっても、それで子どもの育ちが損なわれるわけではありません。
ひとりで抱え込まないで
イヤイヤ期は、子どもの育ちにとって大切な時期であると同時に、親にとってはとても消耗する時期でもあります。だからこそ、ときには少し離れて、自分を休ませる時間を持つことも大切です。
子どもにとって、信頼できる大人は多いほうがいいと言われます。パパ・ママ以外にも、安心して関われる大人がいることは、子どもにとっても、親にとっても支えになります。「少しだけ誰かに頼る」ことは、決して甘えでも手抜きでもありません。
気がかりが続くときは
イヤイヤやかんしゃくは、多くの場合は発達の自然な過程です。ただし、かんしゃくがとても激しく長く続く、まわりとの関わりや言葉の育ちが気になる、といった心配が続くときは、自己判断だけで抱え込まないでください。かかりつけの小児科医や、市区町村の子育て相談窓口、保健センターなど、専門家に相談することができます。早めに相談することは、心配を軽くする近道にもなります。
Family Sitter から
私たち Family Sitter 仙台は、お子さまにとっての「もう一人の信頼できる大人」として、一人ひとりに寄り添った関わりを大切にしています。イヤイヤ期のお子さまをお預かりするときも、その「イヤ」の奥にある気持ちを受けとめながら、ゆったりと向き合います。
「少し休みたい」「自分の時間がほしい」。そんなときは、どうぞお気軽にお声がけください。仙台・宮城・山形エリアで、パパ・ママの毎日に、ほんの少しのゆとりをお届けできたら嬉しいです。
参考にした情報
- エリクソンの心理社会的発達理論(幼児期前期の発達課題「自律性 対 恥・疑惑」)
- 柏木惠子『幼児期における「自己」の発達』東京大学出版会
- 森口佑介ほか「実行機能の発達の脳内機構」「実行機能の初期発達,脳内機構およびその支援」(発達心理学研究/心理学評論・J-STAGE)
- 平井美佳「幼児における自己と他者の調整とその発達」教育心理学研究(J-STAGE)
※本コラムは一般的な発達の知見をやさしく紹介するものです。お子さまの発達に関する心配ごとは、かかりつけの小児科医や地域の子育て相談窓口など、専門家にご相談ください。
この記事をシェアする