赤ちゃんの頃の”安心”は、大人の”けんかのあと”に届く? ― 1歳から35歳まで追いかけた「ミネソタ研究」を、やさしく読んでみました
赤ちゃんの頃の”安心”は、大人の”けんかのあと”に届く? ― 1歳から35歳まで追いかけた「ミネソタ研究」を、やさしく読んでみました
ざっくりいうと
- アメリカのミネソタ大学には、1970年代に生まれた子どもたちを、赤ちゃんの頃から大人になるまで追いかけた研究があります。
- 1歳〜1歳半ごろの「親との再会」の場面で”安心のタイプ”を調べ、のちに20代〜35歳ごろの「パートナーとの話し合い」のようすと照らし合わせたところ、ゆるやかな関連が報告されています。
- ただし、「赤ちゃんの頃で将来が決まる」という話ではありません。研究者たち自身も、あくまで関連であり、効果は大きくないと述べています。
「甘えさせすぎかな」と迷った夜に
泣いてばかりの夜に、何度も抱っこをしていると、ふと不安になることがあります。「こんなに抱っこして、甘えん坊にならないかな」「このまま癖になったらどうしよう」。パパやママなら、一度は考えたことがあるかもしれません。
そんな迷いに、すぐ答えが出る研究はありません。けれど、「赤ちゃんの頃の安心」が、その後の人生とどうつながるのかを、とても長い時間をかけて見つめてきた研究があります。今日は、そのうちのひとつをご紹介します。
「ミネソタ研究」って、どんな研究?
正式には「ミネソタ・リスクと適応の縦断研究」といいます。アメリカ・ミネソタ大学の研究チームが、1975〜1977年ごろに生まれた子どもたちを、赤ちゃんの頃から大人になるまで追いかけてきた研究です。
対象になったのは、はじめて母親になる、経済的に厳しい状況にあった女性たちとその子どもたちです。つまり、あらゆる家庭を代表した調査ではなく、困難を抱えやすい家庭の子どもたちが中心だった、という点を最初に覚えておいてください。
1歳ごろの”再会”の場面が、ものさしになりました
この研究では、子どもが12か月と18か月のときに、「ストレンジ・シチュエーション法」と呼ばれる観察を行いました。心理学者のエインズワースさんが考えた方法です。
やり方は、とてもシンプルです。慣れない部屋で、親が少しのあいだ席をはずし、また戻ってきます。そのときの子どもの様子を、専門家が観察して分類します。
- 再会したとき、安心して気持ちを立て直せる(安定型)
- 再会しても、距離をとりがち(回避型)
- 近づいても、怒ったように抵抗する(アンビバレント型)
アタッチメント(愛着)を研究したボウルビィさんは、親や身近な大人が「困ったときに戻れる安全基地」になることを大切に考えました。再会の場面は、その様子を短い時間でのぞくための、実験用のものさしです。ふだんの子育ての良し悪しを測るものではありません。
大人になって、”けんかのあと”はどうだった?
この研究のデータを使って、2020年に研究者のギルメさんらが、科学誌『Emotion』に論文を発表しました。102人の参加者について、赤ちゃんの頃のタイプと、大人になってからの様子を照らし合わせたものです。
大人になってからの観察は、20歳・23歳・26歳・35歳ごろに行われました。パートナーと2人で、「まだ解決していない大きな話題」を約10分間話し合い、その様子をビデオに撮って、専門の評価者が次の3つの視点で見ています。
- バランスよく話し合えている
- 気持ちをおさえ、話をそらしがち
- 気持ちが大きくなりすぎて、自分のことでいっぱいになりがち
報告されている結果は、次のとおりです。
- 1歳と1歳半の両方で”不安定”と判定された人は、バランスよく話し合うことがやや少なく、気持ちをおさえる傾向がやや多かった
- 一度だけ”不安定”と判定された人は、気持ちが大きくなりやすい傾向がやや多かった(ただし、この点は分析の方法によって結果がそろわず、確かめ直しが必要だと研究者も述べています)
もうひとつ、別の研究者たちが同じ追跡データを使って、20歳のカップルの「けんかのあとの立ち直り」を調べた報告もあります(2011年、『Psychological Science』)。赤ちゃんの頃に安定していた人ほど、話し合いのあとの立ち直りがよかった、という内容です。
ここがいちばん大事 ― 「決まる」話ではありません
ここまで読むと、「やっぱり赤ちゃんの頃が大事なんだ」と感じるかもしれません。けれど、論文の書き手たち自身が、いくつもの注意点を挙げています。
- 関連であって、原因とまでは言えません:赤ちゃんの頃のタイプが「原因」だと証明したわけではありません。関連の大きさも、控えめなものです
- 人数が少ないグループがあります:”不安定”のタイプをさらに細かく分けて比べるには、人数が足りませんでした
- 調べたのは”お母さんとの関係”だけです:お父さんや、ほかの身近な大人との関係は、この研究では測られていません
- 対象は、特定の地域・環境の子どもたちです:日本の、仙台のご家庭にそのままあてはまるとは限りません
- 「あとから」の出会いも、無関係ではなさそうです:16歳のときの親友との関係の安心感も、大人になってからの話し合いと関連していました。論文は、のちの人間関係で安心を積み重ねることが助けになる可能性にも触れています
つまり、この研究が伝えているのは「赤ちゃんの頃に何かが足りなかったら、取り返しがつかない」ではありません。「安心は、人とのやりとりの中でそだっていくもので、いつからでも積み重ねられる」と読むほうが、研究の趣旨に近いのだと思います。
保育の指針にも、同じ向きの言葉があります
日本の保育所保育指針(厚生労働省)でも、乳児期の保育では、特定の大人が応答的に関わることを通じて、情緒的な絆が育つことが大切にされています。「この人がいてくれる」という安心が、まわりの人や世界を知っていく土台になる、という考え方です。
ここでいう「特定の大人」は、お母さんひとりとは限りません。パパも、祖父母も、保育士さんも、ベビーシッターも、日々の関わりの中で、お子さんにとっての「ほっとできる人」になれます。
今日からできる、小さな3つのこと
研究から考えられるヒントです。できそうなものだけ、選んでください。
- 泣いたら、まず「どうしたの」と声をかける:理由がわからなくても大丈夫です。気づいてくれた、という経験が積み重なります
- 出かける前と帰ったあとの”ひとこと”を決める:「いってきます」「おかえり」を、顔を見て言うだけでも、”再会”の場面は安心のチャンスになります
- ぶつかったあとの”仲直り”を、短くても作る:つい強く言ってしまった日も、「さっきはごめんね」「大好きだよ」を伝える時間があれば、十分に立て直せます
疲れた日は、無理をしなくて大丈夫です。完璧な関わりを毎日続けられる人はいません。「できる日に、できる範囲で」で、十分です。
気になることがあるときは、専門家に相談を
お子さんの人見知りや後追い、不安の強さ、ご自身の育児のつらさなどで気になることがあるときは、ひとりで抱え込まず、かかりつけの小児科、お住まいの自治体の保健師さんや子育て相談窓口などにご相談ください。この記事は一般的な研究のご紹介であり、個々のご家庭やお子さんの状態を評価・診断するものではありません。
Family Sitter 仙台より
私たちシッターも、はじめてお会いするお子さんには、あせらずゆっくり関わるようにしています。泣いてしまう日は、そばにいて待ちます。ご家庭でいつもしている”いつもの形”を教えていただき、お子さんが安心できるやり方を大切にしています。
おうちでのお子さんの見守りや、パパ・ママがほっとひと息つく時間に、どうぞお気軽にお声がけください。
参考にした情報
- Girme, Y. U., Jones, R. E., Fleck, C., Simpson, J. A., & Overall, N. C. (2020)「Attachment-Relevant Emotion Regulation Strategies in Adulthood: A Longitudinal Study」Emotion 20(2)(ミネソタ大学研究室の公開PDF、SimplyPsychologyの解説記事)
- Salvatore, J. E., Kuo, S. I.-C., Steele, R. D., Simpson, J. A., & Collins, W. A. (2011) Psychological Science(心理科学協会=APSのプレスリリース)
- ミネソタ大学「Minnesota Longitudinal Study of Risk and Adaptation」の公開スライド
- アタッチメント理論(ボウルビィ、エインズワース)の解説(南山大学紀要の公開PDF)
- 厚生労働省「保育所保育指針」第2章 乳児保育に関するねらい及び内容
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